JRSJ Vol.22, No.6
Vol.22, No.6 水中ロボティクス

今回は,真夏にふさわしい特集をお届けする.水中で活躍するロボット,およびそれにまつわる技術の特集である.ご存知のように水中では様々な力学が物体に作用し,その運動制御は非常に困難である.にも関わらず,既に無策式の水中ロボットが様々な領域で活躍しているというから驚きである.また,学会誌上で今まで一度も,このように技術的にも成熟した水中ロボティクスに対する特集が組まれていなかったのも驚きである.

今回の特集は,この分野の開拓を常に最先端で手掛けてこられ,今現在もご活躍中の方々,そして新コンセプトで勝負をされている新進気鋭の若手の方々に記事のご執筆をお願いした.とても興味深い構成になっているはずである.

浦環氏(東大)には,水中ロボットの中でも特に実用の域に達しつつある,海中ロボットの現状とその種類について解説していただいた.自航式有策無人潜水機(ROV)から自律型海中ロボット(AUV)まで,海中という厳しい環境での運動を可能とするシステム構成について述べられている.永年の間開発に携わってこられた同氏だからこそ書ける,内容の濃い記事である.

鈴木正憲氏(日立製作所)には,原子力発電プラントの水中検査用ROVについて解説していただいた.原子炉圧力容器内の壁面検査のためには,安定した精緻な映像を取得する必要があり,そのために工夫されたROVシステムは,まさに極限環境ロボットである.炉内壁面を沿って航行するROVの写真には,静かなる迫力がある.

伊藤智之氏(東芝)には,やはり原子力発電プラントの炉底部を遊泳して点検する,小型水中ロボットの開発や適用事札 展望について解説していただいた.特に,原子力用であるがための耐放射線性,信頼性を高めるための工夫,操作性向上のための工夫などについて記されており,ロボットシステムの構築を計画している若手研究者にも,貴重な情報源となるはずである.

山本郁夫氏(海洋研究開発機構)には,魚ロボットについて解説していただいた.ケーブルなしで本物そっくりに泳ぐロボットとして話題をさらったのは記憶に新しい.鯛型魚ロボットが「世界で最も本物のように見える魚ロボット」としてギネスブックに認定されているのは,容易に理解できる.誌上で動画が見れないのは残念だが,その写真は生々しい泳ぎを想像させるには十分である.

浦環氏(東大)には,自律型海中ロボットr2D4の概要とその設計思想について,実海域への潜航内容も含めて解説していただいた.実際の写真や図を豊富に提供していただいており,読者を探検家の気分にさせること必至である.

近藤逸人氏(東京海洋大)には,水中をホバリングしながら構造物の知的観測を行う自律型水中ロボット(AUV)について解説していただいた.陸上とは違い,水中ゆえに克服しなければならないセンシングと測位,航法の課題とその克服法について紹介している.いかに水中での自己位置推定が大変か,読者にも十分に伝わってきそうな記事である.

柳善鉄氏(ハワイ大)には,AUVの群ロボットシステムについて解説していただいた.多機能,大型の単一AUVよりも,単機能,小型のAUV群の方が広範囲のデータ収集には高効率である,という発想である.このシステムの実現における困難な点,およびその研究開発の現状について紹介している.

池田貴幸氏(東工大)には,複数台による協調動作を目的とした,水中移動体の制御について解説していただいた.可変拘束制御を用いた水中移動体の位置・姿勢制御,複数台の追従制御・編隊制御などについて紹介している.水中移動体の制御系を構築しようと考えている研究者の貴重な情報源となるはずである.

石井和男氏(九工大)には,ニューラルネットワークを利用した水中ロボットの運動制御システムについて解説していただいた.水中では電波による通信が難しいため,無策式では海上とのやり取りは期待できず,自律的に環境認識をする必要性が高い.ニューラルネットワークの学習能力を応用した,水中ロボットの知能化にぜひ期待したい.

金岡克弥氏(立命館大)には,ダイバーの水中作業を代替するダイバーロボットの実現に向けた,その運動制御手法について解説していただいた.水中ロボットの制御性能の本質的な改善のために必要な,その特性を考慮したソフトウェエアとハードウェアのシステム化というアプローチについて紹介している.

以上のように,最先端でご活躍中の水中ロボット研究者の方々に,これまでの開発の経緯,現状,今後の展望について幅広く紹介していただいた.読者の方々に,水中ロボティクスの奥深い魅力を感じ取っていただければ幸いである.

最後に,ご多忙な折に時間を割いて執筆していただいた諸先生方に心より感謝申し上げます.

(「特集について」より)