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Vol.23, No.1
ロボティクスのための生命理解
新年を迎え,新たな気持ちで,改めて考えてみたい. ロボットは,メカニズム,電気機器,センサー,プロセッサ,制御則,ソフトウェアなど,様々な要素技術の総合として成り立っている.もちろん個々の要素技術を単に集めるだけでロボットができあがるわけもなく,ロボティクスがあって初めてロボットになる.すなわち,力学,機械工学,電気工学,制御工学,材料工学,情報工学などの広範な基盤を総合化し,ロボットを創り出すためのシステム工学と科学こそがロボティクスであろう. ロボットが実用化され始めた前世紀より,センサーやアクチュエータの進歩,プロセッサの高速化,制御方法の発見などに支えられ,ロボットは高度化・高性能化してきた.これらテクノロジーの進歩のおかげで,その振る舞いが動物や人間のように“見える”ロボットを作ることができるところに,我々はようやく辿り着いた.いきおい,動物や人間のように“動く”ロボットを実現しようとする機運が高まっている.だが,まだ「何か」が足りない.現時点のロボティクスに,その「何か」を付け加えてやる必要がある.そのために,究極のロボットの姿である動物や人間に学べということになる. さて,かつて我々は,少なくとも物理的現象に関しては,統一理論によって要素還元論的に理解できると信じていた.しかし,近年,複雑系の科学の発展とともに,パラダイムシフトが起こり,要素還元論的に理解できるとは限らないと考えるようになった.語弊を恐れず要約すると,要素還元論的に一から積み上げる形ですべて理解できるわけではなく,理解したい事象のレベルに応じたモデル化が必要であり,それによって理解が進むと考えるようになったのである.ある種の複雑系である動物や人間も,同様のアプローチで初めて理解できるのではないだろうか. その意味で,動物と人間の運動や知能のモデルとして,ロボットを用いる研究が始まっている.内部の動作を把握できるロボットを用いることにより,内部動作を直接知ることができない動物や人間の動作原理を探ろうとする研究である.しかし,動物と人間を理解するモデルのレベルはそれだけではない.生理学の立場から現象論的に脳・神経系の機能を理解する,生体組織の働きを物質レベルで追いかけて解明する,動物のダイナミックスのレベルで制御方法を探る,動物と本質的に同じ振舞いをよりシンプルな数学モデルから発現させて搾るなど,様々なレベルのモデルを用いた研究が行われている. 本特集は,ロボットに関係する研究者や技術者の方々に,これら様々なレベルの研究を紹介したいとの考えに基づき企画され,以下の解説を執筆していただいた.旭川医科大学の高草木薫氏の「大脳基底核による運動制御機構」,北海道大学の青沼仁志氏の「昆虫の行動決定にかかわる神経機構」,東北大学の矢野雅文民と富田望氏の「実環境における2足歩行の創発的リアルタイム制御」,山口大学の西井淳氏の「多足動物における歩行運動計画」,京都大学の荻原直道民と山崎信寿氏の「神経筋骨格系の構造制約に基づく身体運動の生成」,東京大学の神崎亮平氏の「昆虫の神経系と適応行動」,東京大学の星野一意氏の「昆虫の複眼を規範とした視覚システムとその応用」,北海道大学の飯間信氏の「昆虫のはばたき飛翔機構の解明への数理的アプローチ」,金沢大学の泉田啓の「蝶の飛翔制御法解明への実験的アプローチ」である. 読者のなかには,ロボットに直接結びつかないと思われる方もあるかもしれない.確かに,本特集の解説に登場する研究は,ロボティクスのために行われたとは限らない.しかし,これらの研究は,真にシステム工学と科学の手法によるアプローチを採っており,現在のロボティクスに足りない「何か」を付け加えてくれることを予感させる.たとえ,それらがロボットを開発するためではなく「動物や人間とは,何であろうか?」という疑問に応えようとしたものであったとしても. 本特集を補ってくれるであろう,ロボットを用いた動物や人間の運動や知能へのアプローチを紹介しておく.計測自動制御学会誌のVol.42,No.9で「生物に学ぶ機械と制御」特集が組まれ,生物に学びつつ機械の制御を実現しようという立場で解説されている.また,科学技術振興樺構の戦略的基礎研究推進事業「ロボットの脳を創る」研究プロジェクトが1998年から5年間実施され,特に人間の脳における高次知能の構成へのアプローチが展開された.こちらも,新しい「何か」への胎動のように思われる. 執筆者の方々には,多忙にもかかわらずロボット学会のために快く執筆をお引き受けいただいた.また,本特集の企画に当たり,京都大学の土屋和雄教授に相談に乗っていただいた.末筆ながら,記して御礼申し上げる.
(「特集について」より)
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