JRSJ Vol.25, No.8
Vol.25, No.8 「ロボットの安全化」特集について

日常の生活支援を目的としたサービスロボットや,介護・リハビリテーションを支援する福祉ロボットは,人体を直接扱うことや人の近傍で作業することが大前提である.使用者以外もロボットの近くで活動しており,不意な接触や予見が困難な事態が容易に起こり得る.事故の原因が人間側にあったとしても,一度でもロボットが人を傷つけてしまえばその影響は計り知れない.場合によってはロボット業界全体の根底を揺るがす事態に発展するかもしれない.

以上のことから,近年産業用機械の安全化手法を手本にしながら,人とロボットが空間を共有する際の新たな安全対策が検討されはじめている.2005年の愛・地球博に出展されたプロトタイプロポットや,新エネルギー・産業技術開発機構の「人間支援型ロボット実用化プロジェクト」の支援を受けて開発が進められている医療・福祉ロボットにおいても,機械の一般的な安全設計の枠組に沿って対策が詳細に施され,臨床や治験での使用は厳重な安全管理下で許可されている.本学会においても,サービスロボット用安全認証研究専門委員会や学術講演会で,ロボットの安全設計に関する調査内容や研究成果が報告されはじめている.

本特集号では,グローバルな安全の考え方,国内外におけるロボット安全の規格策定の現状,現行の安全技術や具体的なリスク低減方策,学術的な取り組みに触れることで,より多くのロボット研究者がロボット安全の重要性を認識し,安全化が広く正しく実施されることを目的としている.

初めに,長岡技術科学大学の杉本旭氏に,「グローバルな安全とリスクアセスメントの構造」と題して,欧州規格に基づく包括的安全の基盤から,我が国の見習うべき制度の可能性について概説いただいた.

長岡技術科学大学の木村哲也氏には,「サービスロボットのリスクアセスメントとその課題」と題して,ロボットの危険源とその評価についてJIS規格に基づき解説いただいた.さらに「ドイツ職業保険組合における安全技術者教育」と題して,職業安全において先進的なドイツにおける教育・技術開発・保険が統合されたシステムについて,視察された際の得られた知見を紹介していただいた.

労働安全衛生総合研究所の斎藤剛氏には,「産業機械の安全制御技術の動向と次世代ロボットヘの適用」と題して,近年の安全制御技術・保護装置技術の動向を各種国際安全規格との関わりを交えて解説いただいた.

企業における取り組みとして,NECの西沢俊広氏にはチャイルドケアロボット「PaPeRo」,三菱重工業(株)の日浦亮太氏にはコミュニケーションロボット「wakamaru」, セコム(株)の深瀬東氏には食事支援ロボット「マイスプーン」における具体的な安全対策事例を解説いただいた.

産業技術総合研究所の鎮西清行氏には,現在検討が進められている「ナビゲーション医療分野技術ガイドライン」の骨子を紹介していただきながら,手術ロボティック機器の現状,医療行為を行う際の責任とその能力の評価方法,安全方策の特殊性について解説いただいた.

新エネルギー・産業技術開発機構の堀野正也氏,草田晃司氏には,ロボット開発を支援する立場から,開発プロジェクトにおけるあるべき人間と共存するロボットの安全性 を示していただいた.

産業技術総合研究所の山田陽滋氏には,パーソナルケア・ロボットの国際安全規格や策定の現況と関連規格およびガイドラインを紹介いただきながら,ロボット安全に関 する標準化活動の現状と今後の課題について解説していただいた.

NPO安全工学研究所の加部隆史氏には,「サービスロボットの安全認証」と題して,新規産業であるサービスロボットに対するNPOの認証業務について解説いただいた.

最後に東京海上日勤火災保険株式会社の上田佑介氏には,「「ロボット保険」の現状と今後の展望」と題して,保険の基本からロボットがコモディティ化する未来の保険のあり方まで解説いただいた.

本特集がきっかけとなり,より多くの方々がロボット安全に取り組むようになることを切に願っております.

最後に本特集のために執筆いただいた著者の方々,ご協力いただいた方々に心からお礼申し上げます.

(野方 誠 立命館大学,大明準治(株)東芝)

(「特集について」より)