JRSJ Vol.28, No.6
Vol.28, No.6 「生体筋骨格型ロボット」

近年,ヒューマノイドロポットの実現により,その人間環境下での利用に対する期待があるが,環境に適応した行動が十分とはいえない.一方,生体は長年の進化の過程を経て,環境に柔軟に対応できる機構や仕組みを身につけてきた.そのため,人間環境下で役立つロボットを実現するために,生体の筋骨格系とその制御戦略から知見を得て,それをロボットに応用することが試みられている.これにより,従来のヒューマノイドでは実現できない作業の実現へとつながる可能性がある.さらに,生体の運動制御の解明は生体のアシストやリハビリ等の人間を対象としたシステムの高度化にも寄与するであろう.

本特集ではそれらの実現に資することを目的として,単に生体筋骨格の構造やそれを摸したロボットを紹介するのではなく,生体筋骨格とその運動制御が如何なる有用性を有しているかを明らかにし,そのヒューマノイドロポット等への応用に対する将来展望を示すために企画された.

まず,展望では四肢と筋骨格ヒューマノイドのそれぞれに対して論じている.熊本水賴氏(京都大学名誉教授)は生体筋骨格系に存在する2つの関節にまたがってトルクを発生する二関節筋を有する四肢の生体運動制御における役割と有用性を示し,関節毎にアクチュエータを有する現状のロボットの問題点を指摘すると共に,二関節筋構造が必要となるであろう領域を示している.稲葉雅幸氏(東京大学)は背骨を持つ筋骨格ヒューマノイドはしなやかさ,道具操作,安全性に対して有用性があり,日常生活支援に対して必要であることを明らかにしている.さらに,それを構成するために必要な技術を明らかにしている.

解説は全6編の論文からなっている.五味裕章氏(日本電信電話(株),NTTコミュニケーション科学基礎研究所)は様々な外界や体の動きの状態に合わせて,巧みなインタラクションを実現する感覚運動情報処理の仕組みについて解説し,それらの処理は通常環境でのスムーズな運動を実現するために,感覚情報を受けるだけで自動的に発動していることを明らかにしている.藤川智彦氏(大阪電気通信大学)らは筋の剛性を可変にできる四肢の三対6筋の駆動メカニズムが四肢先端の外力方向と変位方向を一致させることを可能にし,四肢先端のコンタクトタスクを解消できることを示している.有本卓氏(立命館大学)らは手先の巧みさや器用さは転がりを許すときに創発できるとの考えから,人指の筋骨格系から導かれた人の拇指と示指の一対を模した2次元ロボットによる任意形状の把持物体のピンチングに対して,感覚情報を考慮した制御入力により動的安定把持状態へと収束することが示された.水内郁夫氏(東京農工大学)は筋骨格ヒューマノイド研究を,シーズとしての可能性や人体構造に学ぶことの意義をいくつかの側面から考察し,これまで行われてきた人体構造に示唆を得たロボットの構成法・制御法の研究を紹介し,実現の例として筆者のグループで開発した筋骨格ヒューマノイドの構成と設計を解説している.辻俊明氏(埼玉大学)は四肢と水中生物の運動制御との類似性をロボット工学の視点から論じている.三相交流電動棟のdq変換と四肢の二関節筋を持つ平面2自由度構造を対比することで,四肢の構造が推力/質量此の改善に貢献していることを明らかにし,その空間的な定式化をナメクジウオを摸した7対の三関節筋を持つ構造において時間的に変換することで,S字遊泳運動を表現可能であることを明らかにした.呉世訓氏(東京大学)らは四肢の二関節筋を持つ筋骨格がどういった特徽を持つのかを,粘弾性特性と二自由度制御との関連,静力学と動力学の観点から説き明かしている.

最後に,本企画に御賛同頂き,生体筋骨格に対する示唆に富んだ論文を御執筆頂きました皆様に心より御礼申し上げます.

(駒田 論 三重大学)