ロボット技術の発達に伴い,人とロボットのかかわり合いを扱うヒューマン・ロボット・インタラクションの研究への関心が高まり,様々な日常環境で活動するロボットの開発が多数行われている.これまで,ロボットが人と自然にかかわり合うための研究は徐々に進みつつあるものの,人々とかかわり合うロボットが実社会の進展に実質的に貢献するための具体的な役割とその効果については,いまだ試行錯誤の段階が続いている.そのなかでも,ロボットを教育分野に利用する方向性は世界でも広く行われている.特に韓国では,すでに700台以上のロボットが教師となって英語教育に利用されるなど,大規模な形でのロボット利用が行われている.
これに対し,日本では,ロボットがいわゆる教師役となって教育にかかわるのではなく,ロボットが人々の学び合いに介在し,ロボット自身も人々と一緒になって学び合うという「ヒューマン・ロボット・ラーニング」を目的とした新しい学術領域が創成されつつある.具体的には,ロボットが「よい聞き手」として振る舞うことで,人々の学び合いにおいて重要な役割を実現するとともに,人々が学び合うために重要なエッセンスを取り出してロボットに実装することで,インタラクションを通じた人とロボットの学び合いの実現を目指している.このような取り組みは,ロボットが実社会に貢献するための新しいアプローチの一つであると同時に,人間の学び合いのプロセス理解を目的とした認知科学的な研究の側面を備えている.本特集号では,認知科学研究の成果を学習場面に利用することを目的とした「学習科学」の研究に携わる認知科学研究者らと,ヒューマン・ロボット・インタラクションの研究に携わるロボット研究者らが取り組んでいる,人とロボットの学び合いを目的とした人・ロボット共生学に関する研究の解説を企画した.
まず初めに,三宅なほみ氏に,人とロボットの協創へ向けた人と学び合うロボットのコンセプトについて解説していただいた.本特集で扱う,新しい学術領域の創成に向けた取り組み全体について紹介する.次に,人と学び合うロボットを実現するために必要な工学と学習科学の研究動向について解説する.まず萩田紀博氏に,人々の協調的な学びを促進するための協創システムのプラットフォームについて解説していただいた.次に大島純氏に,人々の学び合いをロボットにより支援・促進するための,学習科学に関する研究動向について解説していただいた.
事例紹介では,まず松本より,アンドロイドを用いた医療福祉支援について紹介する.アンドロイドの振る舞いを患者に同調させることで診察に対する印象を向上させる試みから始まり,その知見をもとにロボットが「よい聞き手」になるための取り組みである.次に塩見より,環境センサを用いた対話行動の認識技術について紹介する.環境中に設置された人位置計測システムをベースに,マイクロホンアレイを用いた音環境理解技術を組み合わせることで,ロボットが,「よい聞き手」になるために必要な対話行動認識の要素技術確立に関する取り組みである.前田英作氏には,人々の学び合いを助けるロボットの対話戦略について紹介していただいた.複数の人間とロボットの間のインタラクションを通して人間の学び合いを促進することを目的とした,思考・感情喚起型の多人数インタラクションに関する取り組みを紹介する.開一夫氏には,発達科学的な視点から人々とコミュニケーションを行うロボットの設計について紹介していただいた.人間がロボットの動きや見た目をどのように認知しているのかを,乳児を対象とした実証的実験から明らかにする取り組みである.今井倫太氏には,ロボットとの信頼関係と振る舞いについて紹介していただいた.同時性行動に着目した,試行スタンスを引き出すためのロボットの振る舞いのデザインとロボットに対する信頼関係に関する取り組みについて紹介する.白水始氏には,ロボットが人間の知識の自力構成を引き出す可能性について紹介していただいた.ロボットによるキャリアカウンセリングなどの事例を通じて,ロボットが人々の知識構成に与える影響について紹介する.宮下敬宏氏には,ロボットによる協調学習の支援について紹介していただいた.人々が学習する過程の中で,ロボットが社会的な役割を有することで協調学習を促進する可能性について,子供たちを対象とした実験の結果を交えて紹介している.
以上のように,人と共生し,互いに学び合うことを目的としたロボットを題材に,多くの先生方に原稿をご執筆いただいた.本特集号が,ロボット工学と認知科学の知見を融合させ,人とかかわるロボットの新しい可能性を創成するための,新たな研究コミュニティの育成に役立つことを願っている.