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学会誌

2011 Vol.29 No.5

確率理論のロボティクス応用

目次

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実世界で動くロボットの知覚や制御には「不確実性」は避けることができない.センサはその性能の限界からすべての事象を検出・認識できるわけではないし,「移動」をはじめとしたアクチュエータの出力も,同様に不確実性を持っている.このような不確実性を扱うための手法の起源は1960年に発表されたカルマンフィルタまでさかのぼる.カルマンフィルタは1990年代に入ってロボット研究でも広く利用され,現在ではロボット研究においては常識的といってもよい手法になった.近年では,さらに多くの確率・統計的な手法(HMM,確率共鳴,ベイジアンネットワーク,パーティクルフィルタなど)をロボット研究に応用した研究事例が多数報告されており,注目を集めている.また,昨年度に開催された第56回ロボット工学セミナー「ロボットに使える最新画像処理」は,SLAM,パーティクルフィルタ,SIFT,HLACなどの統計的手法をベースとした画像認識手法を解説するという企画であったが,参加申し込みが殺到し急遽第2会場を準備したほど盛況であったということである.そこで,本特集号は様々な確率・統計的な手法が,ロボティクスの様々な分野で活用されている現状と,その数理的な側面と応用事例を解説する企画とし,この分野の第一線で活躍されている方々に執筆をお願いした.

まず,上田隆一氏(ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所)に,「確率ロボティクスの展望」について執筆していただいた.上田氏はThrunらが書籍としてまとめた「Probabilistic ROBOTICS」の訳者でもあり,マルコフ過程,ベイズの公式,価値反復からスタートする基礎理論だけでなく,確率ロボティクスの成り立ち,扱う問題領域の広さ,周辺の研究領域との関係について解説していただいた.次に,大岡昌博氏(名古屋大学)には,非線形・非平衡なシステムにおいて生じる確率共鳴現象を利用して,センサの閾値より小さな信号をセンシングする手法と,触覚センシングの感度向上への応用,さらに人間の触覚認知との関係について解説していただいた.次にベイジアンネットに関連して,一杉裕志氏(産業技術総合研究所)には「大脳皮質とベイジアンネット」と題して,大脳皮質のメカニズムに関する神経科学的知見と,ベイジアンネットと自己組織化マップを組み合わせた計算論的モデルについての解説をしていただいた.また,本村陽一氏(産業技術総合総合研究所)には,ベイジアンネットによるベイズ推定の基礎と,人の日常生活行動のモデリングへの応用についての解説をお願いした.

さらに,稲邑哲也氏(国立情報学研究所)に時系列パターンの認識・生成手法であるHMM(隠れマルコフモデル)の基礎と,動作認識および動作学習(教示と生成)への応用,またHMMを利用するにあたり考慮すべき特徴についても解説していただいた.また,パーティクルフィルタとその応用に関して,友納正裕氏(千葉工業大学)には「移動ロボットのための確率的な位置推定と地図構築」と題してSLAM (Simultaneous Localization and Mapping)に関する解説を,また篠原雄介氏(東芝)には「パーティクルフィルタと物体追跡への応用」と題して,基本的な考え方と画像処理への応用についての解説を,それぞれお願いした.

また,上田淳氏(ジョージア工科大学)には,生体の筋肉を規範とし,多数の単純なアクチュエータの集合を確率的に制御することにより頑健なアクチュエータを実現する,セルラーアクチュエータとその確率的制御手法について解説していただいた.また,吉川雅博氏(産業技術総合研究所)にはSVM (サポートベクタマシン)についての基礎,ライブラリの使い方,および応用について解説していただいた.最後に,佐藤雄隆氏(産業技術総合研究所)には統計的な画像特徴を画像処理に利用することで,パターン認識の頑健性を向上させる手法についての解説をお願いした.

本特集で解説されている内容は,ThrunらのProbabilistic ROBOTICSで扱われている内容よりも広範囲で,すでに確立されている手法のロボティクスへの応用から,手法自体が新しいものまで多岐にわたる.また,それらの手法の多く(ベイジアンネット,HMM,パーティクルフィルタ,SVMなど)はオープンソースのライブラリやツールで手軽に扱えるようになってきていることもあり,今後ますますロボット分野での利用者が増えるであろう.本特集が読者,特に学生の皆さんがロボット研究に統計・確率的な手法を活用することのきっかけになることを期待するとともに,ご多忙中のところ時間を割いて執筆していただいた皆様に深く感謝する.

(松本吉央 産業技術総合研究所,

道木加絵 愛知工業大学)

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