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日本ロボット学会会長就任挨拶


一般社団法人日本ロボット学会
会長 浅田 稔 (大阪大学)
(2019・2020年度)


 2019年に19代会長に就任しました浅田です.個人的には,大阪大学退職と同時期で,一区切りですが,澤前会長のもとでの2年間の副会長の修行を経て,新たな気持で改革に取り組んで行きたいと思っております.ご存知の通り,いまやAI・ロボットの話題に事欠かない激動の時代で,日本のロボット学界・産業界ともに大きな躍進が求められていますが,状況は必ずしもよろしくなく,中国の躍進を目の当たりにし,苦しい状況ではあります.しかしながら,むしろ,この逆境をチャンスに変えるべく,会員だけでなく,一般の方々とも一緒にチャレンジして行こうと思っており,以下の四つの柱を中心にした活動を考えています.

 まず最初にロボット學再考です.あえて,旧字の學を使いました.ご存知の通り,本年の新年号から学会誌を刷新しましたが,その呼称は,ロボット學再考の意味をこめて「ロボ學」です.かねてより,ロボティクスは諸分野の融合と見られており,学際的研究分野とも言われていましたが,学際,学際と言っている間は,真の融合にも至ってないのが現状です.multi-disciplinaryは,多くの学問分野が共存している状態,inter-disciplinaryは,各学問分野が少し重なりはじめて,異なる分野間の協働が始まっている状態ですが,より進めて,trans-disciplinary,すなわち超域として新たな学問分野が構成されないといけません.それが,ロボット學です.関連する既存の工学分野に加えて,神経科学,認知科学,心理学,社会学,哲学,倫理学,法学などが考えられます.これらの既存の学問分野から見れば,ロボティクスは,学際融合の橋渡し役であり,リサーチビークルの役割が期待されています.既存分野のアプローチは,説明原理に基づくものが多く,設計原理に基づくロボティクスの手法により実証・検証されるとみなされますが,これだけだと既存分野の補助的な役割で終わっているように見えます.そうではなく,ロボット學がこれらの分野を内包し,新たな規範のもとに,再構築されなければならないと考えています.私見ではありますが,その核となるアイデアは,「構成論的人間学」です.「人間」は,種としてのヒト,社会的存在として人を表すと同時に,他の種も含めた生物の代表としての意味合いも持ちます.「構成論的」とは,計算機シミュレーションやロボットなど機械の設計・製作・作動を通じて,仮説の検証や新たな仮説の枠組みの提案能力などの特徴を示しています.仮説は,微視的レベルから巨視的レベルに渡り,各分野との相互浸透的な相互作用が必須です.形骸化しやすい学会間連携ではなく,研究者レベルで密な連携から進めるのが得策です.その意味で,人文社会系を取り込んだ研究専門委員会を新たに設置すると同時に,研究専門委員会の間の連携強化も図りたいと考えています.最もホットな話題であるオート・ドライブでは,技術的な課題だけでなく,より深刻には法制度の問題がポップアウトしています.法律専門家にまかしておけばいいという問題ではありません.技術の課題とそれが社会に及ぼす影響を最初の段階から考慮・検討しなければなりません.その際,技術者だけではなく,他分野の研究者とも議論できる場が,特殊ではなく,普通にならないといけません.そのような場の形成に学会が貢献すべきと考えています.

 二つ目は国際化です.ICRAと並んで,ロボティクス最大の国際会議の一つであるIEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS) の最も大きなスポンサーは本学会です.創設者の尽力により本学会が大きなスポンサーシェアを持っていますが,それに見合う活動が国内からも海外からも期待されています.チュートリアル講演やランチセミナーなども開催していますが,最大の貢献は論文発表です.残念ながら,近年,投稿数も採択数も減少傾向にあり,非常に憂うべき状態です.採択率が欧米に比して約10%くらい低いのは,英語表現能力の差が原因と思われますが,これを改善すべく,Editageと契約して,学生さんの論文投稿時の英語文章能力チェックの支援をはじめました.まだ,周知が徹底していない状況ですが,これが功を奏せば,もう一つの国際会議であるRO-MANへの拡張も検討しています.せっかくいい研究をしながら,英語表現能力の差によって採択されないケースの救済になればと考えています.これが,採択率の向上だけでなく,投稿数の増加にも繋がればと期待しています.

 三つ目は,上記と関連しますが,人材育成です.現在の多くの大学では,一般教養がなくなり,専門過程に早くからはいり学業を積んでいくため,リベラルアーツを身につける経験していない学生さんが多いようです.1つ目の柱であるロボット學再考のためには,最初に人文社会系の学問を修め,そして,それぞれの専門に入り,その上で学問を究める際には,哲学や倫理学が重要です.オランダの哲学者,Twente大学のPeter-Paul Verbeek教授の著書「技術の道徳化」の冒頭に出てくる胎児の動きを可視化する立体ソナー映像にまつわる話は典型的な例です.いままで見えなかったものを見えるようした素晴らしい技術ですが,これにより殺人が生じました.すなわち,胎児に異常の可能性が観察された際,両親,とくに母親に非常にシリアスな決断を迫ることです.このことは,技術が社会にもたらす影響を十分,吟味した上で技術開発を進めるべきだということですが,科学技術の停滞を意味するのではなく,新たな価値や倫理の創造の必要性を説いています.これには,教育体制の抜本的な改革が必要で,簡単ではありません.学会としてできることは,上記の人文社会系を交えた研究専門委員会を立ち上げ,そこに多くの学生さんが参加して,少しでもこの課題の意味を理解し,相互に議論する場を提供することと考えていますが,実は学生さんだけではなく,若手スタッフ,そして教授の先生方にも参画してもらいたいと考えています.

 最後は,産業応用です.これまでの構図は,大学での研究成果をシーズとして,応用可能な産業界との連携でしたが,最近のAI関連の起業の速度が異様に速く,大学と企業の境界が薄くなりつつあります.学生ベンチャーも多くでており,その成功例も少なくありません.また,中国深圳市では,実証実験・実用化のサイクルが迅速にまわっています.科学技術の進展には,理想的な環境とも言えますが,政治的な側面も強く,なかなか難しい問題ですが,そのように静観している間に,多くの知財を一切合切持っていかれそうな雰囲気です.少しでも優位性を保てるところにフォーカスして,支援できる体制を模索していきたいと思います.そのような分野は現存するとともに,新たに創っていかないといけません.量から質へのパラダイムシフトで新たな価値の創造ができれば,チャンスはまだまだあるように思います.

 以上四つの柱に加え,オンゴーイングですが,論文を切り離す学会誌の改革,学生編集委員会の設立,そして,ホームページの再構築も並行して進めています.当然のことですが,これらすべてに対して,オープンマインドです.会員や非会員も含めて,社会に開かれ,未来共生社会を一緒に創っていくチャレンジする方向に学会の舵取りをしていくつもりです.叱咤激励とともに,主体的な参画をよろしくお願いします.


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