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産学連携国際フォーラム「プランニング・プログラミング技術の最新世界動向と産業用ロボット応用」開催報告

2013/11/14
日本ロボット学会 産学連携委員会WG2 主査 吉田英一

開催概要

主 催:一般社団法人 日本ロボット学会、一般社団法人 日本ロボット工業会、日刊工業新聞社

開催日:2013年11月8日(金) 10:10~12:15

開催地:東京ビッグサイト 東3ホール奥メインステージ

企 画:RSJ産学連携委員会 WG2

RSJ理事委員: 小平紀生(委員長、RSJ会長)、高西淳夫(RSJ副会長)、大明準治(幹事、RSJ庶務理事)、細田祐司(RSJ庶務理事)、三治信一朗 (RSJ 財務理事)
RSJ会員委員: 野田哲男(三菱電機)、瀬川友史(WG2幹事、三菱総研)
JARA委員: 矢内重章 (JARA総務部長)、三浦敏道(JARA技術課長)
オブザーバ : 林 英雄、清水 信好(日刊工業新聞社)

主旨

重要テーマにおいて、産と学で歩み寄り、国際レベルで問題点の共有と今後の連携強化をはかる。

テーマ:産業用ロボットのプランニング・プログラミング

「産」から:その産業応用の現状分析と課題提起

「学」から:世界的に著名な研究者による最新研究動向の紹介

経緯

ICRA2013でのノースカロライナ大Dinesh Manocha教授との「産業用ロボットの動作計画」に関する議論:動作計画に関する議論は盛んであるが、実際への利用例はそれほど示されていない。

グラフィックス分野の第一人者で、この分野の造詣も深く、企業との多数の共同研究の実績もある Manocha教授の議論で、今後このような動作計画ソフトウェアは今後の多品種少量生産に向けて大きなインパクトがあり、多数の反響が予想されるのではないか、との結論に至る。

iREX主催者のJARA, 日刊工業新聞社に打診したところ、小平会長より、RSJ産学連携委員会で検討を進め、RSJ-JARA共催の産学連携ワークショップとして開催してはどうか、というご提案。

産学連携委員会WG2を立ち上げ、「学のトレンドから産への適用議論の場」の設定と、学術講演会より企業実務が参加しやすい場を求めるための活動を行うことを確認。

主催者側のご協力により、iREXにて「産学連携国際フォーラム」として、「プランニング・プログラミング技術の最新世界動向と産業用ロボット応用」と題して開催することを決定。

委員会開催: 2013年6月13日、8月1日、10月3日

報告

開催ご挨拶

日本ロボット学会 副会長 早稲田大学教授 高西 淳夫 氏

従来から産業界との協力を進められ、その重要性を認識されている高西教授から、産業界から多数の参加があるiREXにて、学と産を結ぶこのような機会をきっかけに、一層産学連携が進むことを期待するとのご挨拶があった。


来賓紹介

独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術開発推進部長 久木田 正次 様


講演1 ロボットシステムインテグレータの現状と課題

三菱電機システムサービス(株)産業システムセンター 産業ロボット部 圖子 憲司 氏

現場での豊富なご経験に基づき、まず、顧客の要求仕様からシステム検討、システム提案を行い、受注後はシステム設計・製作から稼働、アフターサービスに至るまで多岐にわたるロボットシステムインテグレータの業務内容が紹介された。自然のものや異形物・柔軟物などを扱う食品産業など、今後ロボット化が望まれる分野がまだまだあり、人の感性をいかにロボットに実装していくかが重要であることを述べられた。また、現在の技術的課題として、設計時間や調整作業の短縮、安全対策の充実があることが示された。これをティーチング効率化や動作時間短縮などを通して解決していくため、学側からの最新成果に期待することを述べられた。ロボットシステムインテグレータとして、現場の最前線で認識されている具体的な課題が示された貴重なご講演であった。


講演2 デジタルマニュファクチャリングの現状と将来

デジタルプロセス株式会社 デジタルコンテンツサービス部PEグループ 岩佐 達樹 氏

設計者全員が導入しないと効果が出ないCADに比較し、1台でも効果があり、ロボットのシミュレーションを通して全体最適をデジタルファクトリの効用について説明があり、現在はヒューマンシミュレーションの融合など機能を拡張し、工場全体をシミュレーションするデジタルマニュファクチャリングへと発展してきたことが示された。短期間で実際の設備を使わないで準備し、ライン全体、工場全体をより正確にシミュレーションできるデジタルマニュファクチャリングの利点が示された。現在は設備の信号制御や人間行動を含んだシミュレーションも可能となっている。IT化、モジュール化、システム化の徹底というコンテンツのグローバル化に、すり合わせや技能などのローカルな日本的強みを融合した「グローカル」がブレークスルーになるという、示唆に富んだ見方が示された。


講演3 産業用ロボットをすべての人に

シンガポール南洋理工大学機械航空学科 准教授、株式会社MUJIN技術顧問 Quang-Cuong Pham 氏

Pham氏が技術顧問を務める株式会社MUJINについて説明があった。工場ではまだ溶接など5%しかロボット化されておらず、その5%のうちでも手動でプログラムが行われている背景から、動作計画技術によりこれを自動化することで効率化を図ことが目的であることが述べられた。OpenRAVEというオープンソフトウェアの枠組みを利用してすでに企業と共同研究が行われており、ロボットアームによる部品取り出しや高速な液体搬送のビデオが示された。課題として、これまで研究者が見過ごしてきた実環境での応用における問題の解決に取り組み、1%の失敗も許さない実環境での信頼性を目指していることが述べられた。Pham氏は最後に、産側での応用が進むには学側で基礎研究が進展することの重要性を強調し、今後の連携の進展への期待を示した。


講演4 産業用ロボットの中小製造業への展開に向けて

米国メリーランド大学 機械工学科・システム研究所 教授 Satyandra K. Gupta 氏

産業用ロボットは、大量生産組み立てラインで大きな成功を収め、自動車産業での溶接、塗装、組み立てなどに日常的に用いられている一方、産業用ロボットが、コストやプログラミングの煩雑さから、いまだ中小製造業には普及していない現状が示された。米国でも、30万近く存在する従業員500名以下の中小製造業が製造分野の重要な部分を占め、またロボット企業にとって重要な成長市場とも期待されている。そこで、3Dプリンタ等による低コスト生産、直接ティーチングが可能なBaxterなどのロボットの出現、利用が容易なシミュレータ、移動マニピュレーションなどの技術の進展が、これらの中小企業に産業用ロボットが普及に寄与するという考え方が示された。米国NSFでプロジェクトNational Robotics Initiativeを担当するGupta氏より、米国の最新事情が紹介され、今後の日本の産学連携にも大変参考となるご講演であった。


講演5 動作計画技術の成功物語:研究から産業へ

フランスLAAS-CNRS 上級研究員 Jean-Paul Laumond 氏

動作計画の研究が本格的に開始された80年代当時、ロボットの動作計画問題は解決困難考えられていたが、90年代に入って計算機能力の向上とともにランダムサンプリング法が成功を収めるに至った。研究では、知恵の輪のような単純な計画問題を対象にしているが、複雑な部品組み立て・分解の経路計画も本質は同じであることが述べられた。フランスの公的研究機関であるLAAS-CNRS研究所でのシーズ的研究を出発点とし、Kineo CAM社の設立、製品ライフサイクルマネジメント(PLM)での産業応用、その後の企業の発展、大手企業による買収(ジーメンスPLM コンポーネント)に至るまで、Laumond氏の実体験を興味深くお話しいただいた。その発展にはEUプロジェクトなど公的研究資金が重要な役割を果たしたこと、また医療機器の動作や飛行機の大型構造部品の陸上搬送計画など、実際の問題への適用が事業としての成功の鍵となったことが述べられた。ここでも、Pham氏と同様に地に足がついた基礎研究の重要性が強調された。


講演6 産業ロボットにおける動作計画と近接計算:挑戦と教訓

米国ノースカロライナ大学 情報科学科 特別教授 Dinesh Manocha 氏

Manocha氏が専門とする「近接計算」は耳慣れない言葉であるが、実は、ロボットの動作計画の計算時間の90%を占める干渉検出を計算する、非常に重要な技術要素である。これまでに、PQP, RAPIDといった多くの近接計算ライブラリを開発して公開し、110,000以上のダウンロード、55の商用ライセンス供与が行われた。産業応用は進んだが、CADやシミュレーション、ゲームの分野に限られてきた。これら従来の応用の共通点は、ロボットや物体、環境の「完全」な形状表現を仮定していることであり、これが実世界での産業用ロボットへの応用のボトルネックとなってきた。現在、この状況を打破すべく、レーザー測距や距離画像カメラなど、雑音を含むセンサ情報の取扱い、物理的制約を考慮しながら実時間で動作を最適化する技術の研究を重点的に進めており、これらの研究が進展すれば、動作計画技術が産業用ロボットに応用されるためのブレークスルーになるであろうとの見通しが示された。


会場の様子
会場の様子

フォーラムを終えて

プランニング・プログラミングに関して、基礎研究を産業応用につなげていくかについて、各界で活躍する講演者から、経験に基づく貴重なお話を聞くことができた。会場にも多くの聴衆の方が集まり、今後の産学連携について考える一つの機会を提供できたと考える。

小平会長からも、RSJにおける産学連携の一つの形の提案ができ、大変に良かったとのお言葉をいただいた。会長のおっしゃるように、今後の何らかの学会活動としての発展型と、実際に社会価値を産みだせるような仕掛けを、皆様のご協力を得て引き続き模索していければと考えている。フォーラム後にどうフォローアップするかも重要で、この報告書がその一助になれば幸いである。

最後になったが、今回の開催をリードいただいた小平会長をはじめ、ご挨拶をいただいた高西先生、また企画の具体化やプログラム構成をご支援いただいた瀬川氏、細田氏、野田氏に感謝の意を表する。

事務局の日刊工業新聞の林氏、清水氏をはじめ、JARAの矢内氏、三浦氏には、これまでの豊富なご経験に基づくご支援をいただき、スムーズな運営が可能多大なご協力に改めてお礼申し上げる。

開催レポート(ドキュメント版)