新版ロボット工学ハンドブック
書名 | 新版ロボット工学ハンドブック |
編者 | (社)日本ロボット学会 新版ロボット工学ハンドブック 編集委員会 |
頁数 | 1150ページ (CD-ROM付) |
体裁 | B5判,ハードカバー,箱入り |
発行 | (株)コロナ社 |
発行日 | 2005年5月25日 |
定価 | 34,560円* |
リーフレット (600kB)(本リーフレットは発行当時のものですので,価格表記が 現行と異なっております)
新版ロボット工学ハンドブックはリーフレット(pdfファイル,600kB)に記されるように「ロボット工学ハンドブック」(1990年)の発行以降のロボット分野の研究開発の進展に対応して全面改訂を図ったことと,ハンドブックの発展的な利用が可能となるように編集したCD-ROMを付録することが特徴といえます。その改訂の範囲はほとんど新しくハンドブックをつくりあげるのに等しいものであり,1990年版をベースにしたものもなんらかの改訂の手が加えられています。
新版の対象とする読者は1990年版と同様にロボットの専門家だけでなく,ロボットを学ぼうとする学生まで含んで企画されました。そして解説の執筆には1990年版の1.5倍の約190名の方にご協力いただきました。解説の中には内容の理解にある程度の数学的な知識を必要とするものも含まれます。しかし多くの解説はロボットの専門家でなくてもある程度の理解が可能なように平易に簡潔にまとめられたものであり,ロボット応用に関するものではその適用分野の基礎的な知識が得られるように配慮されたものもあります。
ハンドブックはその厚さから「専門家のもの」と考えられて敬遠されがちですが,上記のように本ハンドブックは幅広い読者を対象としたものであり,ロボット工学の全体像・知識が凝縮してまとめあげられたことを考えると極めて効率的な書籍といえます。
次にもう少し詳しく「新版ロボット工学ハンドブック」の内容を紹介してみましょう。
「ロボット工学ハンドブック」(1990年)との比較
「ロボット工学ハンドブック」(1990年)は800ページ,「新版ロボット工学ハンドブック」(2005年)は1150ページで次の主要目次比較のように新版では2つの編が増えました。新版の「次世代基盤技術」はヒューマノイドロボット,マイクロロボティクス,バイオロボティクスという新しい分野に対応しました。そして「ロボットの製造業への適用」は「ロボット応用システム」とともに,1990版では「応用編」として産業用ロボットとそれ以外の応用事例が1編でまとめられていたものを2つに分けたものに対応したものとなります。
1990年 | 新版(2005年) |
---|---|
Ⅰ. 基礎編 | Ⅰ. 基礎 |
Ⅱ. 要素技術編 | Ⅱ. 要素 |
Ⅲ. 制御技術編 | Ⅲ. ロボットの機構と制御 |
Ⅳ. 情報認識編 | Ⅳ. 知能化技術 |
Ⅴ. システム編 | Ⅴ. システム化技術 |
Ⅵ. 応用編 | Ⅵ. 次世代基盤技術 |
Ⅶ. 資料編 | Ⅶ. ロボットの製造業への適用 |
Ⅷ. ロボット応用システム | |
資料 |
1990年版から新版への内容の変化
1990年版から新版への各編の内容の変化を次に紹介します。
「基礎」,「要素」の編は1990年版発行からのこの分野の研究開発の状況を踏まえた改訂が行われ,また,1990年版で「基礎編」に収録されていた「人工知能」に対応する内容を新版では「Ⅳ.知能化技術」にまとめ,代わりに「計算機科学基礎」を収録しました。
1990年版の「制御技術編」では機構についても解説されていますが,編のタイトルのように制御により多くのページがあてられていました。そこで新版では1990年版以降のロボット関連分野の発展への対応も踏まえながら,機構あるいはその原理の解説が体系的になされるように内容の充実に努めました。例えば従来,「常識」と考えられて見落とされがちになる車輪移動機構の基礎に関する解説も充実しました。そして1990年版に含まれる「センサ応用制御」に対応する内容は「知能化技術」の編でまとめて取り扱うことにしました。
1990年版の「情報認識」はロボットの研究の中でも重要な部分ですが,今日までのコンピュータの処理能力の飛躍的な向上とこれによって実現された関連技術の急速な進歩を踏まえて,新版では「知能化技術」として大幅に内容を改めました。そして「自律移動」の章を新たに加えました。
1990年版の「システム編」はロボットの諸要素をどのように構成してロボットシステムを構築するか,ということを主題に編が構成されています。新版の「システム化技術」も基本的にはこの流れを踏襲したものですが,この間のネットワークを中心とした技術の普及の速度は目覚しいものがあります。そこで時代の変化に即した章の構成としました。新たに加えられた章は「モデリングとキャリブレーション」,「ヒューマンインタフェース」,「ロボットシステム設計論」,「分散システム」です。そのうち「ロボットシステム設計論」で解説される内容はこれからロボットの研究開発に携わろうとする研究者・技術者に参考になると考えられます。
新版の「次世代基盤技術」は前述のようにヒューマノイドロボット,マイクロロボティクス,バイオロボティクスという新しい分野の解説です。
1990年版の「応用編」での産業用ロボットの解説は事例紹介を中心としたものでした。新版の「ロボットの製造業への適用」では事例紹介の章の前に,ロボットに関連した生産ラインの計画,設計,管理などに携わる管理者・技術者に必要な知識の解説を含め,産業用ロボットの産業という観点からの解説も新たに加えました。
1990年版の「応用編」での「非製造業への応用」,「極限環境作業への応用」,「技術教育」に対応する部分が新版の「ロボット応用システム」となります。新版ではこれらの発展に対応した改訂を行ないました。新たに加わったものとして「医療用ロボット」,「福祉ロボット」,「レスキューロボット」,「地雷探知ロボット」などがあります。そして新版の「研究・教育への応用」の章では技術教育を包含しながらもロボットと研究・教育の関係を幅広い視点から解説しています。
ハンドブックの概要の収録
ロボティクスは急速にその対象領域を広め,一方でその専門領域を細分化しつつあります。このために専門家でもその全体像を把握するのが困難な状況になりつつあります。新しくロボットを学ぼうとする人たちにとってはその全体像の把握の困難さはより以上のものでしょう。
そこでこの種のハンドブックとしては全く新しい試みとなりますが,1000ページを越えるハンドブックの内容を10ページに概要としてまとめて収録しました。ハンドブックの限られたページの中で発展しつつあるロボティクスの対象領域を全て解説することは不可能ですが,ハンドブックがかなりの領域をカバーしているのは確かです。そこでこの短くまとめられた概要を読むことで短時間でハンドブックの全体像(≒ロボティクスの対象領域)を把握でき,ハンドブックを使いこなすのが容易になることでしょう。
◆1990年版について
「ロボット工学ハンドブック」(1990年)を時代に即した新しくものとするために,「増補改訂」とと「全面改訂」の2つの道がありました。ハンドブック改訂準備委員会が発足した1999年での検討で,ヒューマノイドロボットの登場などの急速な変化が生じている中で単なる増補改訂では対応できないことが確認され,1990年版というベースはありましたが,全面改訂という新たなハンドブックを編集するのに等しい道が選ばれました。新版ロボット工学ハンドブック編集委員会の目次構成の検討では,基礎となる記載内容の変化の少ない部分,そして周辺技術の発展や社会ニーズによって変化の大きい部分をわけて全体の構成を行うことになりました。新版は多くの新しい執筆者が加わったこともありますが,上記の観点から1990年版で紹介されていたロボットや機構の様々な事例を割愛せざるを得ませんでした。このような観点から1990年版もご愛蔵ください。 |
付録CD-ROMについて
ハンドブック中の解説の補強に付録CD-ROMを
ハンドブックの本文はモノクロオフセット印刷です。このため,伝えられる情報量に限界があります。そこで新版では付録CD-ROMに左図のように本文の解説に対応する写真や図の画像を多数収録しました。これにより高価なカラーグラビア印刷の本と同等の視覚情報を提供することを可能にしました。また,CD-ROMには可能な限り例のように解説文を付加したり,参考文献を紹介するように配慮しました。
ハンドブック,また,普通の書籍にもあてはまることですが,参考文献が示されてもそれらを調べることが容易でなく,その書籍自体で閉じた世界をつくってしまうことがあります。インターネットの普及前,論文に示された海外の参考文献を取り寄せるために文献サービスに費用と時間を費やした時代がありましたが,1990年代後半から急速に普及したWWWを用いた情報発信により,極めて短時間に多くの情報を得られる環境となりました。書籍とインターネット,この2つの媒体には情報収集の面で大きな差が生じているといえます。そこでCD-ROMでは左記の例のようにリンク先を紹介することでより詳しく知りたい読者に対応できるようにし,従来の書籍の枠を越えて発展的に利用できるようにしました。
[CD-ROMに収録の画像ライブラリの例]
CD-ROM利用による検索性の向上
ハンドブックや便覧を使っていて不満に思うことに「検索性」があります。検索にはその本の目次や索引を使うことになりますが,一般に厚いことからページをめくりながら調べるのは決して検索性がよいとはいえません。特にインターネットの普及により検索エンジンを多用し,また,検索されたページの内容をブラウザの検索機能を使うことが多くなった現在,痛切に感じる課題です。
将来的にはハンドブック自体が全て電子化され,その全文検索も容易になる時代が到来するのは間違いないと考えられます。しかし,書籍という紙の媒体だから可能なスキミングといった読み方に現在のコンピュータ能力が対応できていないこと,書籍でこそ可能な「ある項目を調べていて別の思いがけない発見をする楽しみ」,さらに電子化の普及によって社会的な問題となっている著作物の保護手段などの課題があり,全面的な電子化への移行は今しばらく時間がかかりそうです。
付録CD-ROMは上記のハンドブックの検索に対する不満に対応するため,ハンドブック本体に収録の目次よりも一段深い項目まで含めた目次,そして索引を電子化して収録しました。ブラウザにより「逆引き」的な使い方も可能です。そしてハンドブックだけでは「検索のページで調べて,本文のページを開く」という動作を繰り返すところが,「CD-ROMをPCに入れてディスプレイに索引ページを表示させ,ハンドブックの中を読む」という使い方を提供できるようになりました。なお,目次のタイトルは索引に含めないのが,このような書籍での索引の一般的な編集方法ですが,編集委員会では検索での使い勝手を重視し,目次のタイトルでも重要な語については積極的に索引に加えるようにしました。さらに本文中に登場した英語・日本語の対応にロボット関連のJISの用語などを加えて約1,500語の英・日対応用語集を付録CD-ROMに収録しました。
(幹事)