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日本ロボット学会会長就任挨拶(2021・2022年度)


一般社団法人日本ロボット学会
会長 村上 弘記 (株式会社IHI)
(2021・2022年度)


 2022年に日本ロボット学会は40周年を迎えますが、本年2021年から2年間会長を務めさせていただくことになりました。ロボ學再考をテーマに浅田前会長とともに、様々な改革に取り組んできました。これからの2年間は、取り組み始めた改革の定着と活性化された学会を目指したロボット学の発展に貢献していく所存です。

 ロボット産業を取り巻く環境は、2015年の「ロボット新戦略」に基づく5か年の政策により、労働力不足の対策の切り札として、製造業でも手のつかなかった作業や非製造業の各種産業分野へのロボットの適用の挑戦、生活の場へのロボットの社会実装の取組みが目立ちました。2017年にはSociety5.0を実現するために「Connected Industries」の概念が発表され、すべての産業がデジタルでつながるということに加え人工知能に関する技術が容易に使えるような環境の中、Cyber Physical Systemとしてのロボットへの期待も広がりました。このようなことから、ロボット産業は2018年に1兆円に届こうかという勢いで、一時的には米国トランプ元大統領の対中政策による経済の冷え込みで停滞したものの、2020年には持ち直す見通しでした。一方、非製造業や生活環境でのサービスロボット分野では、すでに中国、韓国などが先行して社会実装を積極的に進めており、欧州でも大型のプロジェクトに取り組まれるなど、日本は後れを取っている状況でした。2020年の東京オリンピックや、World Robot Summit、2025年の関西・大阪万博などでの新しい取り組みに期待されるところでした。

 しかしながら、2020年は世界的な新型コロナウイルス感染症(COVIT-19)の影響で、生活や仕事のしかたが否応なく変えざるを得なくなり、急速なデジタル化が進行しました。当初は、人と人の直接的な接触ができなくなるなどの混乱や、医療現場での混乱が発生し、消毒作業などへのロボットの利用など、思わぬ形でのロボットへの期待が膨らみました。このような社会環境の変化から、これまで提唱されてきたデジタル化の効用と課題が明確になってきたとともに、新しい取り組みが必要となってきていると思われます。

 この社会的変革から、ロボット、ネットワーク、人工知能といったデジタル技術が産業・生活の中に様々な形で浸透していくこととなるのは避けられず、歴代の会長が提唱されている「ロボット学」が社会に求められてくる時代となってきたと感じております。このようなことから、以下のようなことを中心に活動に取り組んでまいります。

 まず、ロボットが生活環境、産業現場に広く浸透するために、人の活動の中に入り込んだロボットの人文社会的な考察をする分野の拡充を図ります。目指す姿は、生活や一般産業の場へのロボット開発における哲学、心理学、倫理学などの観点や、法学など社会実装に向けての方向性を示す学会となることです。

 次に、ロボットの社会実装のための産学連携です。特に、実際の現場へロボットを導入するためのロボットシステムインテグレータの重要性に着目されているので、人材育成から技術教育に至るまで協力するとともに、ノウハウとして培われてきた技術の体系化・標準化とともに、次世代のロボットインテグレーションに必要となる技術を見出していきたいともいます。

 国際化については、歴代の会長が積極的に取り組まれていますが、スポンサーであるIROS、Ro-MANと欧文誌Advanced Roboticsを有機的に活用することで、日本からの発信力を高めていきたいと考えております。

 人文社会系の論文では、ロボットに関する文芸表現、歴史など技術者だけではない社会の状況も取り上げていくことから、工学的な研究者・技術者だけではない幅広い会員の獲得を目指します。すでに立ち上げた一般向けのホームページ「ロボ學」も活用し、日本ロボット学会の社会的認知度の向上を図りたいと考えております。

 世界的な新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインでの会議、講演会、講習会などにも、慣れてきたと思います。これまで蓄積してきた学会の知的財産の活用の場と方法も様々な形が考えられるようになってきたと思います。この2年間は試行錯誤をしながら、今後の形を探っていきたいと考えております。2022年には、産業界での日本ロボット工業会が50周年、IROSが35周年で京都での開催となります。本会も40周年を迎え、学術講演会は東京大学で皆さんと集える講演会となると思っております。新しい時代の先頭を走るべく本会を運営してまいりますので、叱咤激励とともに会員の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。