論文査読方針と基準
日本ロボット学会論文誌 査読の方針と基準
論文は (A.) 新規性,(B.) 有用性,(C.) 提案性 の3つの評価を軸として査読されます.それぞれの評価軸の定義を以下に示します.
- 新規性:ロボットに関する学術(科学技術/人文社会)の全般を対象とし, 新たな知見などが含まれていること.
- 有用性:ロボットをはじめとした人工物を対象として,学術(科学技術/人文社会) 全般の問題解決等に有用であること.ただし,実用化以前の萌芽的な内容も評価する.
- 提案性:ロボティクスに寄与する新しい学術・技術領域,コンセプト,システム概念などが提起されていること.
また,論文を (1)要素,(2)システム設計・構築,(3)人材育成,(4)実証実験,(5)人文社会の5分野に分類し,査読小委員会を分野ごとに独立させて,査読に際して分野の特殊性を考慮して評価を行います.以下に,各分野の査読の方針と基準を示します.
皆様の積極的な論文投稿をお待ちしております.
(1) 要素
ロボットは,様々な要素を有機的に結合し,各要素の特徴を生かした動的システムである.要素分野では,センサー,コンピュータ,アクチュエータ,機構,モデリング,制御,アルゴリズム,ソフトウエア,インターフェイス,認知・認識,知能等の基幹要素に関する科学・技術を含む幅広い論文を査読対象とする.査読方針としては,論文取扱規則で定義されている新規性,有用性,提案性を軸として評価する.
他の4分野(システム設計・構築,人材育成,実証実験,人文社会)に適する論文以外のすべての論文はこの分野に投稿いただきたい.
(2) システム設計・構築
これまで学術的な意義が十分には認められていなかった実用システムの設計・構築手法に価値を見出し,研究開発を促進するための査読基準を定義しなおすことで,産業競争力の強化に繋げたい.例えば,下記の総和により,社会で求められている課題の例示,それを解決する技術開発,実システムの設計・構築,それらを支える理論の研究活動を,正のスパイラルで結合し,産学官のコミュニティの醸成を牽引する論文分野を目指す.
- 実社会で実用的に稼働しているシステムについて,開発目的 に対するスペックイン,その投資効果に対する技術的,理論的考察,目的に対して過不足のない設計とその設計手法
- システムが複雑化し,これまで重要な技術として価値があるとは十分には認められていなかったシステムの設計手法
- システム構築を迅速化・低コスト化する手法の技術的価値の検討
- これまでの価値基準では技術的新規性がないと思われるが,うまく動作している新しい応用システムの事例報告(うまく動作しない事例の報告).ただし単なる「作ったら出来ましたという報告」ではないこと
- 上記の(4)に対する科学的・工学的な視点から価値を高める議論を促進すること
(3) 人材育成
ロボット教育やロボットを用いた人材育成は,ロボット工学の教育はもちろん,ロボットの動きがヒトの目を引きやすい,理解しやすい,また,ロボット技術が様々な技術の集合体であるという理由から,小中学校の理科教育から企業技術者の人材育成まで,幅広い学習者を対象として活用されてきました.また,ロボット工学が総合的な学問であることから,課題発見能力や自己解決能力の涵養,構成論的な教育に適しているという特長もあります.
しかしながら,教育や人材育成の対象である人間のコントロールが困難であること,その結果,教育効果の定量的評価が困難であることなどの理由から,これまで教育や人材育成手法は,ロボット工学分野では学術的な評価の対象となってきませんでした.その結果,ロボット教育や人材育成手法が共有されず,新しい知見の発見や人材育成手法の改善,体系化が進まないという問題点がありました.
そこで,教育実績の定量的評価の確立,ロボット教育・人材育成手法の共有,および公開による質の改善プロセスの実現を目指して,ロボット教育,人材育成分野の論文を募集します.将来のロボット研究者・技術者やロボット技術のユーザー人材の育成,ロボット教育による社会貢献を目指した論文を採録したいと思います.
人材育成分野では,下記,全ての内容が含まれているかで査読を行います.
- 以下の内容が十分に記述,説明されているか?データは,定量的な評価(数値)だけではなく,定性的・主観的な評価(アンケート,聞き取り調査)を含む.
- 問題提起,前提条件:教育,人材育成が必要とされる社会的背景,その対象の想定と具体的な学習教育目標など.
- 仮説,および,それに基づく提案:学習教育目標を実現するためのプロセスに関する著者の想定,教育,人材育成の具体的な実施手順や開発した手法等の説明など.
- 学習過程,データ:観察された学習活動,そこから想定される学習プロセスの考察,提案内容を支持する事実の提示.
- 考察:実施した結果から得られた知見,結果の考察,社会的意義の説明など.教育者側の学びを含む.
- 論文の内容に,ロボット教育,人材育成としての妥当性があるか.
- ロボット教育分野,人材育成,社会全体に役立つ可能性が認められるか.汎用性,応用性は考慮されているか.
(4) 実証実験
ロボット技術を実社会に導入するためには,実証実験が必要不可欠であり,実証実験により得られたLessons Learnedのロボティクスに対する貢献は,非常に大きい.また,実社会に実装されたロボット技術の実運用に関する報告も,今後のロボティクスを発展させる上で,高い価値があると考えられる.しかしながら,これまで,「学術的新規性が小さい」といった理由から,ロボットの実証実験や実運用に関する論文は,あまり掲載されてこなかった.そこで,日本ロボット学会論文誌では,ロボットの実証実験や実運用に関する論文投稿を喚起するため,実証実験分野の論文について以下に示す査読基準を設定し,実証実験や実運用に関する論文の掲載を積極的に進める.これにより,実証実験結果や運用報告ならびに,Lessons Learnedを広く共有することで,ロボティクスの発展に繋げたい.
- 手法の新規性は問わない.実証実験または実運用に関する,背景(社会的課題や実運用におけるハードルの要因),目的,条件,環境,方法,結果が過不足無く記述されていること.なお,実験や実運用の過程で生じた障害とその克服についても,記述があると良い.
- 実環境下での有用性を評価できる結果を入れること.(シミュレーションのみの論文や,コントロールされた研究室環境内で実施した実験に関する論文,「作りました.動きました.」だけの論文は,実証実験分野には該当しない.)
- 実証実験については,できる限り,他手法との比較がなされていること.類似環境における実験がすでに既報としてあれば,それらとの比較でも良い.また,実運用の報告については,その有効性と発展性が判断できるだけの,十分なデータが掲載されていること.
- 実証実験または実運用により得られたLessons Learnedが記述されていること.価値のあるLessons Learnedが得られていれば実験の成否は問わない.
(5) 人文社会
ロボット概念の深化・拡張や,ロボットの健全な普及を目指した社会システムに関する知見は,次のイノベーションを引き起こす核となると考えられる.そこで,人文社会分野では,従来の科学技術分野にとらわれない人や人と社会との関わりを対象とする学術分野との学際的,横断的,また,構成論的な,ロボットに関する深い理解や,ロボットと人間および社会の関わりを扱う研究論文を募集する.たとえば,ロボットの本質を問う原理的考察,ロボットに関する文芸表象や歴史,ロボットとそれに対する人間の振る舞い,人やロボット間の相互作用や認識・受容,非言語的行動を含む知能情報処理に関する新たな概念や基本的理論,ロボットに関する法や政策等を取り扱うものが対象となる.とりわけ,ロボット開発に新たな可能性を切り開いたり,ロボットの実社会への応用可能性を拡張したりすることを促しうるような独創性,先進性が積極的に評価される.